約 1,869,011 件
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/282.html
赤羽神社庭:柊蓮司 急いで書庫を飛び出し、玄関へ。 「がんばってねー、柊」 靴を履く柊蓮司とフェイト達に手を振るくれは。 「って、お前はこないのかよ」 くれはこれでもウィザードだ。 アニエス・バートンという大物が関わっている事件では絶対協力してほしくなる。 「ごめん。柊が来る少し前にね、アンゼロットさんから連絡があったの。世界結界が不安定になってて、これから大変なことが起こるかも知れないから待機しててるようにって。柊には連絡無かったの?」 そんな連絡はない。 念のために、ウィザード用携帯電話0-Phoneの受信履歴を見てもそれらしきものはない。 「いや、ないな」 つま先で地面を叩いて足を靴に押し込んだ。 「俺たちは行くけど、なんかあったら連絡してくれ」 「うん、わかった。いってらっしゃーーい」 手を振るくれはを背中に、柊蓮司とフェイト達は石段を駆け下りていった。 アニエス・バートンの封印:ベール・ゼファー 緑色の鱗で構成された大きな部屋。 その鱗は絶えずうごめき、場所を変えている。 部屋の中央にはこれも緑色の鱗を積み上げ固めて作った祭壇があり、そこにはステラを着けたインテリジェンスデバイス・オッドが差し込まれている。 交互に点滅を繰り返すステラとインテリジェンスデバイス本体の球体の前で、ベール・ゼファーは額に手を当ててため息をついていた。 「アニエス、そういうことは先に言いなさい」 オッドの点滅が早くなる。 「無理だったのはわかってるわ。でも、二度手間は嫌いなの。あの時、執務官の娘を殺しておけばって思うじゃない」 時間が無かったのは確かだ。 アニエスはファー・ジ・アース帰還の際に世界結界に穴を開けている。 そのため、異世界で集めたプラーナが枯渇寸前にまでなっていたのだ。 早く頭蓋骨のある、この地に来なければ消滅の危険すらあった。 しかし、追い詰めたことを考えると……がっかりも良いところだ。 「それでも、執務官の娘とその仲間がこの結界を破って、復活前のあなたを倒してしまうってのは面白くないし……」 鱗の部屋は月匣内に作られている。 月匣自体強力な結界だが、この月匣には弱点がある。 アニエス復活のためのプラーナ収集に必要な入り口だ。 だが、入り口からウィザードが入るのは不可能だ。 入り口は異世界で広域結界と呼ばれるものを応用して閉じてあるのだから。 「でも、異世界から来た時空管理局の娘達なら可能性はある……」 ベール・ゼファーは耳を澄まし部屋に満ちる蝗の羽音を聞く。 「執務官は見失ったようね。え……?」 羽音がベール・ゼファーに新たな情報をもたらす。 「そう、なにをしているのかはわからないけど派手なことになっているようね。私もパーティに入れてもらいましょう」 軽くステップを踏むベール・ゼファーの姿が聞える。 「病み上がりは大人しくしてなさい」 残るのは無数の蝗。 その蝗をステラと対になるインテリジェンスデバイス本体の球が両目のように輝き見つめていた。 内火艇:八神はやて 空間に浮かぶ無数の空間モニターには周囲の地形や動体の情報が表示されている。 この作戦の前に周囲にはセンサーを配置している。 これをくぐり抜ける者はまずいない。 別の情報を表示する空間モニターもあった。 クラウディアからの情報のダウンロード状況と応援部隊の進行状況を示す空間モニターだ。 どちらも100%になるにはまだ時間がかかる。 この両方が100%になったとき、この世界が第97管理外世界か、それともよく似た別の世界かがわかる。 はやては、また別の空間モニターに目を移す。 応援部隊誘導のためのビーコンの情報をあらわすものだ。正常に動いている。 警報が鳴り出した。 各空間モニターも色を変え、警告を示す。 空間モニターを戦闘用の配置に変更。 センサーとレーダーの範囲内に何者かが侵入していることをあらわす光点が出てくる。 それは無数にあり、またそれぞれが魔力を有していることもあらわしていた。 「予想どおりやな。ま、篝火つけてるみたいなもんやしな。みんな、準備はええ?」 「スターズ1。こっちはいつでもいいよ」 「スターズ3。OKです」 「スターズ4。いけます」 外の三人からの応答が聞こえる。 「こっちもです。八神部隊長」 ヴァイスのサムズアップ。内火艇も問題ない。 「それじゃあ、みんな、始めるよ。殺しに来てるかもしれん相手に非殺傷設定やって無茶なこというけど、後から友達になるかもしれんのや。くれぐれも頼むね」 「わかってるよ」 「わかりました」 「了解」 外からの光点の動きが速くなる。 スターズを示す光点がそれに合わせて散らばっていった。 森:スバル・ナカジマ 森の中には様々な障害物がある。 茂み、木の根、岩。 地面の凹凸も移動を妨げる要因となる。 しかし、スバルにとってはそれらは障害とならない。 地面すれすれに作られたウィングロードを走れば舗装された地面と同じになる。 敵は銃を持った頭から足まで黒ずくめの特殊部隊の兵士。 生える木々を遮蔽にして銃弾をかわしながら1人ずつ殴り、昏倒させていく。 だがウィングロードにも欠点はある。進行方向が敵に悟られやすいのだ。 「しまった!」 直線になったウィングロード上に特殊部隊の兵士が飛び乗り、スバルめがけてサブマシンガンをフルオートで放つ。 「Protection」 最初の数発はマッハキャリバーが防いでくれる。 「これでっ」 次はシールで防ぐ。 腕に伝わる衝撃が長くは持たないことを教えてくれるが、なのはから聞いた灯の狙撃ほどではない。 シールドの限界までに十分近づける。 「リボルバーシュートっ」 光に撃たれた兵士が倒れるのを見ながら蛇行させたウィングロードを走る。 丘:ティアナ・ランスター ティアナが選んだのは少し高い丘になっているところだった。 「ヴァイス陸曹。本当にここで良いんですか?」 このポイントを選んだのはヴァイスだ。 ここに来てから何もない。 ときどき念話で聞こえてくる通信からわかるスバルの奮闘がティアナを焦らせる。 「狙撃ってのはな、じっくり待つもんだぜ……ほら来た」 空間にモニターが投影される。 そこにはあと1分もしないうちに敵がティアナの射程圏内に入ることを示す光点が映されている。 しかも、ご丁寧に狙撃する順番を示す番号まで書かれている。 「その順番に撃ってみな。敵さん、超一流のスナイパーがいると勘違いしてくれるぜ」 「はぁ……」 半信半疑ながらも狙いをつける。 「シュート」 小さくつぶやく。 一発一発、丁寧に撃っていく。 モニターの表示が敵が行動不能になっていくのを示していった。 1/4も倒したとき、敵の集団が後退していくのがわかった。 「本当だ……」 自分でも驚くほどにスムーズにできた。 「ティアナ、スバルが囲まれかけとる。そっちの援護に行って」 「了解」 フェイクシルエットを1つだけ残して走る。 幻影が囮になっている間、いくらか時間が稼げるはずだ。 空:高町なのは 敵の攻撃は空にも及ぶ。 森に隠れた敵から放たれたロケット弾は弧を描きながらなのはを追っていく。 「アクセル……シュートっ」 追ってくるロケット弾は3つ。 それから離れながら魔力弾で打ち落とす。 爆発。 爆発。 爆発。 突如、後方が明るくなる。 無数のロケット弾がなのはを撃墜すべく、火を噴きながら迫っていた。 地上:ジェームズ・T・ホーク ジェームズ・T・ホークは絶滅社が誇る対エミュレイター用に訓練された最精鋭の特殊部隊の中でもひときわ腕利きの男である。 ロケット弾の群れが次々とエミュレイターに激突していくのを見た彼は自分の仕事に満足していた。 数発の対エミュレイター用ロケット弾で追い込んだ上での飽和攻撃。 彼が指揮する部隊が得意とする戦術だ。 彼の部隊は、この戦術で街1つを一夜にして滅ぼしたエミュレイターを倒した実績を持っている。 その時は13発のロケット弾でエミュレイターを倒した。 今回使ったのは30発。 その時の実に2倍以上の量である。 「全弾の着弾を確認しました」 部下の報告を聞く。 まさにパーフェクトな出来だ。 「敵、エミュレイターの撃……」 部下の報告が止まる。 「どうした」 空を見上げる部下の視線を追ってジェームズは空を見た。 そこでジェームズが見たのは、徐々に薄れていく爆炎の中から現れた赤い光がともる杖を持った白いエミュレイターだった。 白いエミュレイターの口が動く。 「ごめんなさい」 なんだ、なにを謝っているだ。誰に謝っているのだ。 理解できなかった。 その時、ジェームズは思い出した。 人間とは全く相容れない強力なエミュレイターの話を。 「ま……魔王」 赤い光が放たれた。 彼の部下を次々となぎ倒していく。 「白い……魔王」 彼と彼の部下が着けている装備は極めて強力な耐魔法防御が施されている。 よほど強力な攻撃であっても一撃でやられると言うことはない。 しかし、赤い光は苦もなく彼の部下を倒していく。 光が彼に迫ったとき、彼はそれまでの経験も誇りも全てそぎ落とされ叫ぶしかなかった。 「うわーーー、だめだーーーー」 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/bravelysecond/pages/117.html
順位 選択肢 得票数 得票率 投票 1 プロビデンス【第2形態】 16 (18%) 2 マグノリア・アーチ 9 (10%) 3 教育学部長 9 (10%) 4 ブラッディ・ガイスト 7 (8%) 5 イデア・リー 5 (6%) 6 ティズ・オーリア 5 (6%) 7 アナゼル・ディー 4 (4%) 8 アニエス・オブリージュ 4 (4%) 9 リングアベル 4 (4%) 10 ツバキ 3 (3%) 11 エイミー・マッチロック 2 (2%) 12 プロビデンス【第1形態】 2 (2%) 13 ポラン二等兵 2 (2%) 14 ユウ・ゼネオルシア 2 (2%) 15 ヨーコ 2 (2%) 16 レヴナント・グレイス 2 (2%) 17 アルタイル 1 (1%) 18 アンジェロ・W・パネットーネ 1 (1%) 19 アンネ 1 (1%) 20 クー・フーリン 1 (1%) 21 チャラン軍曹 1 (1%) 22 デニー・ゼネオルシア 1 (1%) 23 ニコライ・ニコラニコフ 1 (1%) 24 ファンダル・ゼネオルシア 1 (1%) 25 ベガ 1 (1%) 26 ミネット・ゴロネーゼ 1 (1%) 27 リーファ 1 (1%) 28 アヤメ 0 (0%) 29 アルフレッド 0 (0%) 30 グリード・ゼネオルシア 0 (0%) 31 ジャン・アンガルド 0 (0%) 32 ダンザブロウ 0 (0%) 33 ノルゼン・ホロスコフ 0 (0%) 34 マルマール 0 (0%) その他 投票総数 89
https://w.atwiki.jp/pokecharaneta/pages/8360.html
コアラボーイ コッキィ キャラクター コメント テレビ東京系で1984年10月4日から1985年3月28日まで放送された、コアラを主人公にした子供向けアニメである。制作プロダクションは、トップクラフト。放送時間帯は、毎週木曜日19:00~19:30、全26回(30分に2エピソード収録)のオリジナル・アニメ作品である。 キャラクター ネッコアラ:コッキー エモンガ:モンガー コメント 名前 コメント すべてのコメントを見る 草案 チラチーノママ リングマ:パパ チラーミィ:ラーラ ラビフット:フロッピー ミミロル:ミミィ キルリア:ベティ ロズレイド:ルイス ニャース:ウェザー コオリッポ:ニック ポッチヤマ:パニー ガラガラ:ワルサー イーブイ:コルト ニューラ:ルガー -- (名無しさん) 2021-01-23 11 58 16 コッキーはネッコアラに合いそうですよ。 -- (卯年のおじゃる丸) 2017-11-21 15 32 01
https://w.atwiki.jp/aohitolov3/pages/294.html
イデア タイプ 断罪者 タイプ ブレイブリーセカンド 種族 人獣 ジョブ ディフェンダー HP 450 ATK 60 DEF 60 コスト 40 アビリティ 召喚 なし 覚醒 なし 超覚醒 ブレイブリーデフォルト 立って! 男の子でしょ! エタルニア公国近衛師団長イデア・リー! キミを助けに来たよ! 詳しい話は後、まずはあいつをやっつけるよ!! その人は突然現れた。 恐怖によって心を折られていたオレを完全に立ち直らせてくれたんだ。 アニエス様救出に、こんなに心強い味方はいないだろう。 なんといってもあの光の戦士の一人なのだから! そして、共に旅に出て数日。 彼女の作る料理に辟易している。 しかし我慢しなければ。 なんといってもあの光の戦士の一人なのだから! クリスタル正教騎士団三銃士ユウ・ゼネオルシア 身長 1.58[meter](リボン含む) 最高速度 156[km/h] モットー 白黒つける 好きなラーメン こっさり 流派 シンカゲ流 待ち人 待て。いずれ現れる イラストレーター 吉田 明彦
https://w.atwiki.jp/aquarianagetcg/pages/2242.html
Character Card [[WIZ-DOM]] [[タレント]]/[[スチューデント]]/[[ミスティック]] 1/1/1 ▼/[[シンクロ]]/チャージ1 この[[キャラクター]]がバトルする際、≪このキャラクター≫の[[攻撃力]]に+(2)して判定する。 No.1779 Rarity C Illustrator 久坂宗次 Expansion 星の煌輝 カード考察 純潔の騎士“アニエス・ラ・ブルー”のような イニチアシブと精神攻撃力を持つキャラクターの脇に立っているとかなり強い、 また、シンクロを抜きにしてもパワーカードを多く消費させられるため優秀。 さらにWIZ-DOMの主力アイコンであるミスティックを持つため簡単にデッキに組み込むことができる。 ○関連カード 星降学園バンド ドラム担当 星降学園バンド ダンス&コーラス担当 星降学園バンド ギター担当 星降学園バンド ヴォーカル担当 星降学園バンド ベース担当
https://w.atwiki.jp/familiar/pages/4634.html
投票所機能のテストです。 選択肢 投票 [ルイズ] (77) [シエスタ] (47) #vote(項目A[],項目B[]) 項目追加可能 #tvote(項目A[],項目B[]) 順位 選択肢 得票数 得票率 投票 1 アンリエッタ[486] 2 (40%) 2 アニエス[111] 1 (20%) 3 エレオノール[29] 1 (20%) 4 ルイズ[737] 1 (20%) 5 カトレア[166] 0 (0%) 6 カリーヌ[4] 0 (0%) 7 キュルケ[8] 0 (0%) 8 ギーシュ[1] 0 (0%) 9 サイト[79] 0 (0%) 10 シェフィールド[1] 0 (0%) 11 シエスタ[169] 0 (0%) 12 シルフィード[180] 0 (0%) 13 ジェシカ[26] 0 (0%) 14 ジョセフ[2] 0 (0%) 15 タニア[2] 0 (0%) 16 タバサ[562] 0 (0%) 17 テファニア[326] 0 (0%) 18 フーケ[3] 0 (0%) 19 マリコルヌ[44] 0 (0%) 20 マルトー[1] 0 (0%) 21 ミ・マドモワゼル[1] 0 (0%) 22 モンモランシー[17] 0 (0%) 23 ヴィットーリオ[2] 0 (0%) その他 投票総数 5 コメント機能による投票なら以下のようになります。 ルイズに1票 -- シエスタに1票 -- シエスタに! -- シエスタに一票 -- 蒼蛇? #tvote() 異動してから時間がない……それはさておき、プラグインはこちらを使うと項目追加可能です……追加しないほうが良いかもですけど -- 261 アンリエッタに一票 -- で、これ何の投票?w -- これはテスト投票だという事は分かっているのだが…。ベスト5入り+ティファの上位と言う事はそうそうないだろうから、真剣にシルフィに1票www -- タバサに1票!テストとはいえ負けられぬ! -- タバサに1票!テストとはいえ負けられぬ! -- 何のために投票してるのか教えてくれないか?w -- ルイズのツンデレ激萌え -- かすみ? けなげなアンリエッタ萌え! -- めす竜3位だよ、めす竜ww -- あんなにあったシエスタ票は何処へ…?? アニエスに一票 -- ダーナガ? タバサに一票…テストと言えともダントツだ!タバサ最高だよ! -- サイトを影で見るタバサ? 絶対タバサ! ナニガなんでも!! -- つき? 微妙にきゅいきゅいがルイズの背後に着いて来てる…。得票率10%超えてるし。w -- もちろんタバサに一票ですね!てか、タバサ以外に誰を投票すればいいのかと -- 自由な旅人? ・・・そろそろ ここ消さないか? -- 雛形として使う人もいるだろうし、消すのはアレかと -- アホの子には抜かれまいと、ルイズが2位を驀進中。w やっぱ13巻効果もあるのかな? -- キャラ以外の選択肢が「整理」されてるw? キャラも一旦整理した方がいいかもね、数字直で触ったのをずっと残してあるのも無意味(トータル5000ちょいビューのページの投票数が何だこれわっ) -- キャラの投票数をいったん消してやりなおしたほうがいいのは間違いないな。 -- 一旦リセットされて、再スタートのようなのねー。 -- タバサが良い・・・。ツンが強すぎるルイズなんて目じゃないっす! タバサが圧勝すればそれで良しっ!! -- マイセン? ダレか知らんが、懲りろよ・・・ だから何で ビューの伸びより投票数の方が多いんだよw みりゃ分かる事だろ馬鹿か? -- アンリエッタ女王に一票ですね。 -- 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7885.html
前ページ次ページゼロのロリカード ――――――ルイズ達の眼前を包み込んだ炎熱が掻き消える。 否、より強い何かに吹き飛ばされた。 それは火のブレスのみならず、火竜騎兵もろともであった。 熱気の残滓だけが・・・・・・ついさっきまで、確かに迫っていた死の匂いを感じさせた。 ルイズは目をぱちくりさせる。 タバサは中途半端に唱えたジャベリンの詠唱を霧散させる。 「まだまだですね、ルイズ」 自分の名を呼ぶその人は誰だろう・・・・・・? 頭ではすぐにわかったが、「こんなところにいる筈がない」と思考がおっつかない。 魔法衛士隊の服に、隊長職を示す羽飾りのついた帽子。 マンティコアが刺繍された黒いマントに、本物の幻獣マンティコアに乗り立つその人物。 顔下半分を鉄のマスクで覆い、左手に杖を持ち、風をその身に纏うメイジ。 現存するメイジの中でも、間違いなく最強の一人に数えられる退役騎士。 トリステイン史上指折りの英雄。トリステインの生ける伝説。 鋼鉄の規律を今もその心根に置き続ける、先代マンティコア隊隊長。 その風魔法は荒れ狂う暴嵐の如く。その速度は疾風の如く。 さらにはあの吸血鬼アーカードと闘い、引き分けた『烈風』。 「か・・・母さま・・・・・・?どうして・・・・・・?」 ルイズの呟くように問い掛けた言葉にタバサは驚く。目の前の男装の麗人がルイズの母親なのかと。 タバサもなりたてとはいえ、一応は風のスクウェアである。だがその実力差は分析するのも馬鹿らしかった。 同じ風のスクウェアであろうルイズの母は、自分なんかとは比べ物にならないほど。 たった一人で戦局を引っくり返し、小手先の戦術など無駄だと思い知らせる圧倒的な強さを肌で感じる。 「それはですねルイズ、あなたの成長ぶりを見に来たのですよ」 『烈風』カリンことカリーヌ・デジレ。 ルイズと同じ桃色の髪に鋭い瞳。老いて尚、美しさと強さを保つその姿。 カリンの纏うオーラはそのまま渦巻く風になる。 カリンが使ったであろう魔法は、風の結界と化してガリア竜騎兵を近付けさせない。 そのおかげで、今も悠長に話すだけの時間が作られていた。 「もう二つほど言うなら、我が娘が心配なのと・・・・・・」 カリンは鉄のマスクをはずして微笑む。 「少し昔の血が騒いだといったところですね」 それは娘を慈しむような笑みと、これから暴れられるという歓喜の笑み。 それら二つが絶妙に絡み合った不思議な表情。 アーカードと戦ってから、心に僅かにともった火種。 それが日々を重ねるごとに大きく燃え上がり、これ幸いと戦場へと赴いた。 風を一身に味方につけたカリンと、カリンの駆るマンティコアは竜騎兵の速度すら歯牙にかけない。 「でも・・・・・・どうやってここを?」 「一度王宮へ寄ったのですよ」 そう言うと、カリンは回想を始めた。 ◆ 王宮中庭の直上。マンティコアの背からカリンは見下ろす。 気付けばなにやら戦闘が行われており、女王と騎士、そしてそれに相対する者が見えた。 王宮周辺の不自然なほどの無警戒さ、相当の負傷をした様子である女騎士と満ちる殺気。 長年の経験が・・・・・・第六感のようなものが告げている。 否、そうでなくとも自明の理だった。 ここまでやって来たのも、王宮勤めの兵が一人もいなかったからに他ならない。 明らかな異常事態、恐らくは敵の襲撃。それもかなり強力な術者。 目を鋭くし、カリンは詠唱する。 極々単純。風を吹かせて思い切り叩き付ける。ただそれだけの魔法。 しかして烈風を体現したその一撃。敵と見られる二人の男女を、その不意を打った一発のみで完全沈黙に追い込んだ。 そしてマンティコアを中庭に降下させ、地へと飛び降りると、すぐに恭しく片膝をつく。 「何者だ」 満身創痍に見えるが、それでも目の光を失っていない女騎士アニエスが恫喝するように言う。 「お久し振りでございます、陛下」 そんな騎士の問いも、カリンはどこ吹く風と跪いて礼をする。 「えっ・・・・・・と・・・・・・」 逡巡する女王アンリエッタの声音から感じる迷いに、カリンは顔をあげずにそのまま言葉を続けた。 「覚えておられないのも仕方ありません。私は先代マンティコア隊隊長カリーヌ・デジレでございます」 「カリーヌ?まさか・・・・・・あの『烈風』カリン殿!?」 「・・・・・・それで、魔法衛士隊の服を・・・・・・」 アンリエッタは驚愕の叫びをあげ、アニエスは警戒を解かぬまま納得する。 「はい、その通りです陛下。王家に変わらぬ忠誠を。本日こうして馳せ参じたのは理由がありますが――――――」 カリンは己が打ちのめし、失神する二人へと向ける。 「――――――その前に、この者達は"敵"でよろしかったのでしょうか?」 万が一違っていたら申し訳ないと、一応確認をする。 「えっ・・・・・・?あっ、はいその通り"敵"です。ありがとうございます、助かりました」 「いえ、それは何より。もし味方であったなら、面目がありませんでした」 「・・・・・・ご助力、感謝します」 アニエスが素直に感謝の意を述べる。 実際窮地に立たされていたと言っても過言ではなかった。 もしも助けがなければ、陛下の御身が危なかったのは間違いない。 「では、改めまして。私がここに来た理由は戦争への参加の許可と、娘の居場所をお教え頂きたく・・・・・・」 「・・・・・・娘・・ですか・・・?」 アンリエッタは首を傾げる。 その疑問に答えるように、カリンは鉄仮面をはずして地面に置き、顔をあげた。 「公爵夫人?ラ・ヴァリエール公爵夫人ではありませんか!!ということは娘と言うのは・・・・・・」 「はい、我が不肖の娘ルイズでございます」 「公爵夫人があの『烈風』カリンその人でしたなんて・・・・・・」 アンリエッタは驚きを隠し切れなかった。 幼き頃から聞かされてきた、武勇伝を作ってきた人物が、まさか己の見知った者だったとは。 「現役を退いて長い私ですが、娘の成長を確認すると同時に出撃しようと思った次第です」 「なるほど、そうですか・・・・・・その・・・・・・わたくしは、謝らねばなりません。 わたくしはルイズを・・・・・・戦に参加するよう、前線へ赴くよう命令しました。 無二の親友を・・・・・・戦場へと誘ったのです。謝って済む問題でないことはわかっています。 が、わたくしにはこうすることしか・・・・・・本当に、申し訳ありません」 アンリエッタはカリンに対して深々と頭を下げる。 「陛下!!おやめください!!」 仮にも一国の女王が頭を下げるということが、どれほどの意味を持つのか。 アニエスはアンリエッタを制止する。だがそれでもアンリエッタは頭を上げない。 正直に話して謝罪する、それがせめてもの誠意。 「そうですね、確かに可愛い我が娘です。母の感情としても、謝られても済む話ではありません」 「カリン殿ッ!!」 アニエスはカリンを睨む。不敬な振る舞いに激昂する。 アンリエッタは頭を下げたまま、アニエスを無言で宥めた。 「・・・・・・しかし、かつて王家に仕えた一人の騎士として、その心情と覚悟はしかと承りました。 理由なくそのような命令を下す筈もありますまい。国を守る為に取った選択なのでしょう・・・・・・。 ルイズの使い魔である彼女の力が必要であろうことは、私も戦った手前よく存じ上げております」 (マスターと戦った・・・・・・!?) その上で五体満足で生きていることにアニエスは心中で声をあげた。 只者でないことは感じ取れていたが、まさかそこまでとは。 アンリエッタは目を静かに瞑る。女王として強く生きる。 それがウェールズとの誓いであり、アーカードにも諭されたこと。 国の・・・・・・人々の上に立つ者の責務。その重さを認識し、その道を進む。 そしてアンリエッタはカリンに説明する。 ルイズの虚無のこと。吸血鬼アーカードのこと。 現在の戦局。政治事情。この戦争の意味。己の覚悟。 「――――――・・・・・・以上と、なります」 「なるほど、了解しました」 カリンは自嘲気味に笑う。まだまだ自分は娘のことをわかっていなかったと。 虚無の担い手ルイズ。 目覚めたのは火の系統?とんでもない。始祖ブリミルが使ったとされる伝説の系統。 通常の魔法とは比べるべくもなく、多大な戦果をもたらした強力さにも驚く。 何よりも、娘ルイズの立派過ぎる成長に胸が熱くなる思いであった。 さらにその使い魔である吸血鬼アーカード。 魔法も使えないのに生粋の風メイジである自分と対等以上に渡り合った、あの者の強さに納得する。 ただの人間にしては不自然だと思っていたが、まさかそんな裏の面があったとは。 事実上トリステインが、今もこうして国として在るのは二人のおかげ。 これまで自分が積み上げた武功に、勝るとも劣らない英雄ではないか。 しかもそれを公にすることもなく、人知れず王家の為に今も粉骨砕身働き続けている。 使い魔を信頼し、女王を信頼し、そしてなにより自分自身をも信頼しているのだろう。 「では陛下。時間も惜しいので、私は出撃いたします」 引退したとはいえ、自分も負けてはいられないではないか。 カリンの心が躍動する。ルイズの成長をこの目で見て確認し、国の為に娘と肩を並べて戦う。 これ以上ないほど素晴らしいこと。 「はい、ルイズを・・・・・・よろしくお願いします」 アンリエッタの心配する表情に、カリンは「お任せ下さい」と頼もしく頷き、鉄マスクを装着する。 若かりしかつての『烈風』カリンの風格をそのままに、フワリと浮き上がってマンティコアに乗った。 カリンと共に風の恩恵を受けたマンティコアは、目覚ましい速度で空へと飛び去った。 「母親譲り・・・・・・なのですな」 アニエスがしみじみと呟く。アンリエッタも首を縦に振って同意した。 美しさも、血統も、芯の強さも。あの母にしてあの子ありと言った感じであった。 ◆ かいつまんで話し終えたカリンは、噛みしめるように目を閉じ、一拍置いてから微笑む。 「本当に立派に成長したようですねルイズ、まだまだ荒削りのようですが」 「母さま・・・・・・、ありがとうございます」 ルイズも笑みで返す。自信と尊厳を秘め、確固たる意志を込めた鳶色の瞳。 それ以上、母と娘の間に言葉は不要であった。 「征きなさいルイズ、周辺の掃除は私がしましょう」 「はいっ!!母さま!!」 シルフィードが飛ぶと同時に、カリンは鉄マスクを着け直し、眼光を鋭く飛んでいる敵騎兵を睥睨する。 ルイズ達が飛ぶ道を、風の呪文で切り拓く。未だ衰えぬ『烈風』。風の加護を受ける風の申し子。 「さぁ・・・・・・始めましょうか・・・・・・」 誰にともなく呟く。 それを契機にカリンの纏うオーラが一層強くなり、風がすぐに開放しろと言わんばかりに暴れ始めた。 悪魔と死神が踊る戦場に、舞い降りた一陣の烈風。 その参戦は、既に敗色濃厚であったガリア軍へと駄目押しする、 そしてその敗北を、より確定的なものへと変えた。 ◇ 降下、加速、上昇。 ジョゼフらの乗るフリゲート艦を目指し、シルフィードはもう一度飛ぶ。 母と会ったことで、ルイズのモチベーションは最高潮に達した。 感情が昂ぶり、魔力が律動し、心は無想へと相成る。 ルイズは始祖の祈祷書を開く。指輪がキーとなり、新たなページと文字の光が目に入る。 「・・・・・・新しい呪文?」 ルイズの嵌めた風のルビーの発光に気付いたタバサが言った。 「えぇ、これなら・・・・・・」 ルイズは作戦の説明をする。 虚無と先住。エクスプロージョンとカウンターの二段構えを突破する方法。 シルフィードはフリゲート艦の上空で旋回を繰り返す。 留まって飛行していても、烈風カリンが根こそぎぶっ飛ばしてくれたおかげで、竜騎兵の追撃は無い。 「大丈夫、信じて」 説明を終えたルイズの一言。タバサは力強く頷いた。 ルイズは機を見て飛び降りた。重力に逆らわずに落下する。 新たに覚えた呪文のルーンを唱え、準備は完了した。 落ちる時間は短い。 ルイズはサーベルを見えない反射の壁へと突き立てるように、ルイズは体勢を整える。 悠々と笑うジョゼフが放つエクスプロージョン。それがルイズを包み込む瞬間――――――。 ――――――ルイズは虚無を開放した。 初めて使う魔法であったが、憂いはなかった。 思惑通りにルイズは、フリゲート艦の甲板に到達していた。 そして放つ――――エクスプロージョン。 フリゲート艦の上方に膨れ上がった光の球は、反射を消し飛ばす。 同時にルイズから少し遅れて飛び降りたタバサが、フライで機動制御しながら光球へと突っ込んだ。 先住の反射のみを吹き飛ばすよう標的指定をされたエクスプロージョンは、タバサをフリゲート艦へと無事着地させた。 『雪風』を周囲に纏い、タバサはルイズと背中合わせに立って、それぞれ宿敵の姿を改めた。 タバサは口をつぐみ、ただ怜悧な眼光でジョゼフを見据える。 ルイズは不敵な笑みを浮かべた表情で、ビダーシャルを見据える。 ジョゼフとビダーシャルには、一体何が起こったのかすら、未だ認識出来ていない。 ジョゼフが上空にエクスプロージョンを放ち、ルイズを仕留めたかと思えば・・・・・・。 すぐ近くでいきなり光球が膨れ上がり、消える頃には見知った少女二人が何事も無く立っていたのだった。 ルイズの新たに覚えた虚無魔法『テレポート』。 術者を『瞬間移動』させるその魔法は、ジョゼフの『爆発』より一瞬早く発動。 ルイズは『解除』を掛けたサーベルを『反射』へと向け、艦の上に転移。 仮に『テレポート』が完全な転移ではなく、『加速』のような超高速の移動術であっても『反射』を切り裂くという算段。 音もなく甲板へと降り立ったルイズは、タバサから教わった静音詠唱で、二人に悟られぬよう『爆発』を唱える。 そして『飛行』で軌道修正し、次いで『氷嵐』を唱えたタバサは、『反射』を無効化したルイズの『爆発』を活路に艦へ乗り込む。 結果、ジョゼフのエクスプロージョンを空転させ、尚且つビダーシャルのカウンターを破ることに成功した。 美事なまでにジョゼフとビダーシャルの意識の間隙を突き、二人がフリゲート艦に立つことを許した。 二人を守るように展開された『氷嵐』の雪風は、ジョゼフの加速による奇襲を許さず。 今ここにようやく、タバサとルイズはそれぞれジョゼフとビダーシャルへと相対した。 「クッ・・・・・・フフッ・・・ふはッ・・フハッハッハハハハハハッハ!!」 ジョゼフは狂喜に打ち震えて笑った。ただただ笑いたくなった。 この感情を与えてくれた・・・・・・目の前の二人の少女に感謝したいと思うほどに。 戦争を起こした甲斐があった。悉く己が予想を裏切ってくれる。 この戦場という舞台で、踊り楽しませてくれる粒揃いの役者達。 なるほど、これはただの観客ではつまらないではないか。自分も是非、共に踊りたい。 まずは瀕死の重傷から立ち直ったシャルロットを殺し、次に同じ虚無の担い手であるルイズを殺す。 「・・・・・・」 ビダーシャルはただ目を見開き、そしてルイズと視線を交わす。 先住と虚無を破った少女を。宿敵たる虚無の担い手の姿を。 戦うつもりは無い・・・・・・が、虚無の少女の瞳はそうは言っていなかった。 (闘いもやむなしか・・・・・・) 虚無の力は侮り難し。 ジョゼフの力を近くで見てきて素直にそう思う。 反射を掛けたヨルムンガントも、魔法学院襲撃時に虚無を基点に敗れ去ったと言う。 そして今、実際に精霊の力たる反射を越えてここに立っているという事実。 もとより己は油断や慢心をする性格ではないし、加減をする余裕もないだろう。 フリゲート艦の上という制限下でもあるし、闘うのであれば全力で掛からねばならぬ。 (場合によっては・・・・・・殺してしまうやも知れぬな・・・・・・) 殺すことそのものの忌避。そして新たな虚無の担い手の目覚めへの危惧。 主人を殺された場合に於ける、その使い魔アーカードの行動。憂慮すべき点は多い。 (逃げるのも・・・・・・手か) むしろそれが利口な選択というものだろう。 ジョゼフとの約束があるし、見届けようとも思った。 だがしかし、個人のことだけではなくエルフ種族全体にも関わることである。 もしもルイズを殺し、あの真正の化物であるアーカードに敵意を向けられれば重大な問題に発展する。 ビダーシャルは退くことを心に決めた。 右手で左手を握りしめると、指輪に込めた風石の力を作動させる。 そして闘争の火蓋は切られ、最後の演目がいよいよ幕をあける――――――。 前ページ次ページゼロのロリカード
https://w.atwiki.jp/gods/pages/119220.html
フローラボーネン(フローラ・ボーネン) 両シチリア王の系譜に登場する人物。 関連: フィリッポ(8) (夫)
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7103.html
前ページ次ページラスボスだった使い魔 夏期休暇が終わり、魔法学院の生徒たちは各々実家から学び舎へと戻って来た。 だが学院には長い休みが終わった直後のざわめきや落ち着きのなさが見られず、その代わりに妙な緊張感が蔓延している。 その理由は言わずもがな、もはや秒読み段階となったアルビオンへの侵攻である。 耳ざとい貴族諸侯の中には『王軍の仕官不足はかなり深刻で、学生仕官を登用することを検討しているらしい』という噂を早くから聞きつけ、それを自分の息子や娘に伝えている者もいた。 無論、いくら学生とは言え、親から伝え聞いたその情報を学院で声高に叫ぶような真似はしない。 だが『貴族たる者、国家の命あらば戦争に行かねばならない』という気負いのようなものが彼らの中では発生してしまい、それが独特の緊張感を生んでいるのだ。 また、学生仕官登用の情報を聞いていない、あるいは親から聞かされていない学生も多くいたが、そんなグループの人間とて『近い内に本格的なアルビオンへの侵攻が始まる』というムードは察していた。 そして学院中に漂っている『変に張り詰めた空気』を感じ取り、やはり緊張感を募らせる……という結果になっている。 つまり、緊張感が緊張感を呼んでいたのである。 「……うぅむ」 ギーシュ・ド・グラモンもまた、そんな緊張感を感じている一人だ。 彼の場合は父が王軍の元帥なため、軍の事情によく精通している。 よって学生仕官の話もかなり早い段階から掴んでおり、グラモン元帥はそれを聞くや否や息子のギーシュをこれでもかと言うほど激励したのであった。 ちなみにグラモン元帥は老齢のため軍務をすでに退いており(元帥は終身職のため、軍務を退いても死ぬまで元帥である)、今回の戦争に自分が出陣出来ないことを非常に残念がっていた。 生粋の武人である元帥は、いつもの文句である『命を惜しむな、名を惜しめ』という言葉をギーシュとその三人の兄たちに重ねて送り、特に一番若いギーシュに対して『王宮から仕官を募る触れが出たら真っ先に志願しろ』と言ったのである。 「うーん……」 父が言うにはそのお触れは夏期休暇が終わってすぐ、早ければ今日中で遅くとも今週中までには出るとのこと。 根が素直な、悪く言えば単純なギーシュはこれを聞いてすぐにやる気になり、『王宮からのお触れはまだか』と息巻きながら魔法学院に戻ったのだが……。 「……い、息が詰まる」 こうも学院のそこかしこで戦争間近な雰囲気が漂っていては、その意気込みもやや消沈してしまう。 とは言えアルビオンとの戦争に際して気負っている自分もまた、この空気を形成するのに一役かっていたりはするが。 「はぁ……」 溜息などをついてみても、それでこの緊張感が緩和されるわけでもない。 ……実はギーシュとしては、戦争は戦争、学院は学院、と分けて考えていたかった。 何故なら。 (戦争になったら多分、モンモランシーを始めとするたくさんの女の子に会えなくなってしまうじゃあないか) おそらく仕官すれば、しばらくは学院に戻って来れまい。 いや、下手をすれば命を落とす可能性だって十分にありえるのだ。 だったら、今くらいは女の子たちとのひと時をたっぷりと満喫しておきたい。 具体的に言うと、女の子を口説いておきたい。 もう少し欲を言ってしまうと、命をかける前にアレコレと忘れられない思い出を作っておきたいなぁウヘヘ。 実際にモンモンランシーに聞かれたら殴られて蹴られて踏まれて水責めされても文句の言えないような内容の考えだったが、ギーシュ的には大真面目なのである。 「……………」 だと言うのに、この空気は何だろう。 学院全体は落ち着かないムード、女子生徒たちの間では軽く悲愴感すら漂い始め、男子生徒たちの間では『仕官した後にどの部隊に配属されたいか』などと話している始末。 臆病で知られているマリコルヌや、見るからに荒事には向いていなさそうなレイナールまでがそんな会話に参加していたのだから驚きだった。 ……そんなわけで、とてもじゃないが誰かを口説いてる空気ではないのだ。 いや、ギーシュも最初は果敢に挑戦はしていた。 学院に戻るなり真っ先にモンモランシーの部屋に駆け込み(女子寮への忍び込み方はユーゼスの研究室に通っている間に慣れていた)、彼女の顔を見た直後、 「やあ、会いたかったよモンモランシー! あまりにも君に会いたかったから、もう僕はどうにかなってしまいそうさ! ああっ、僕の心と身体がこれ以上どうにかなってしまう前に、君のその心と身体で僕をどうにかしてはくれまいか!!」 と言ったら、 「ええ、確かにどうにかなってるみたいね」 という金髪巻き毛の少女の言葉と共に、水のカタマリをぶつけられて吹っ飛ばされてしまった。 ……この口説き文句は、けっこう自信があったのだが。 まあ、それはそれとして。 「……ユーゼスの研究室にでも行こうかなぁ」 何もやることがない時はユーゼス・ゴッツォの研究室に入りびたる……というのが、アルビオンで一騒動あってからのギーシュのライフスタイルである。 あの静かな部屋は、意外と憩いの空間としての機能もある。 それに何より、女子寮の真っ只中という立地が素晴らしい。……下手に動くと騒がれるので、そんなに活発には行動出来ないのが残念ではあるが。 「アイツ、二ヶ月の間に少しは成長したかな……」 『どの方面の成長』なのかは、言わずもがな女性方面だ。 聞く所によると、ユーゼスは夏期休暇の間ずっとラ・ヴァリエールの家にいたとか。 となると、当然そこに住んでいるエレオノールと何がしかのアクションはあったに違いあるまい。 いや、その場面にルイズが絡んでくる可能性も大いにあるし、下手をすると彼女たちの両親も出て来て、てんやわんやの大騒ぎになってしまったかも。 「まあ、話してみれば分かるか」 一体どんな感じになってるんだろう、と期待を抱きつつ研究室のドアを開けるギーシュ。 そこには……。 「……………」 「あれ?」 銀髪の男が、グッタリとした様子で机の上に突っ伏していた。 まるで糸の切れた操り人形のようだ。 「お、おい、ユーゼス?」 慌てて駆け寄ってユーゼスと思しき男の肩を揺するギーシュ。 するとその男は墓場から今まさに蘇えらんとでもするかのような動作でゆっくりと身体を起こし、どろりと濁った眼差しでギーシュを見つめた。 「…………ミスタ・グラモンか。久し振りだな…………」 「……何があったんだ?」 ギーシュの予想通り、その男はやはりユーゼス・ゴッツォであった。 しかし、何だか心身ともにボロボロな様子である。 と言っても、別にどこか怪我をしているとか精神的に追い詰められたという感じではない。 適切な表現を探すのなら……。 「どうしたんだい? どうも、凄く……疲れているみたいだけど」 そう、疲弊しきっているのだ。 それも長期間の疲労が蓄積しているっぽい。 「まあ……夏期休暇の間に……色々と、あってな……」 グッタリしながらそう言うユーゼス。 本当に何があったんだろう、と首を傾げつつ、ギーシュは詳しい話を聞こうとする。 「もしかしてルイズの実家で一悶着あった、とか?」 「…………『一悶着』で済めば良かったのだがな」 そうしてユーゼスは、この二ヶ月間に起こったことをポツリポツリと語り始めた。 「まず……御主人様の母親に、『訓練』もしくは『稽古』という名の拷問を受けてな……」 「うん?」 初っぱなから、何かがおかしい。 ……まあいいや、黙って続きを聞いてみよう。 「それだけならまだ良かったのだが、他に御主人様から乗馬の指導を受け……」 「はあ」 「更に何故かよく分からないが、エレオノールが私にダンスの踊り方や女性のエスコートの仕方、服の着こなし方まで仕込もうとして……」 「……ふ、ふぅん」 「心が休まる時と言えば部屋に一人でいる時や、カトレアと二人で茶を飲んでいる時くらいだったか」 「……………」 そこまで聞いて、ギーシュは取りあえず話の中の疑問点をぶつけてみることにした。 「どうして君がルイズの母君から稽古を?」 「……どうも、私の実力についてかなりの不満があったらしい」 まあ、おせじにもユーゼスは『強い』とは言えない。 と言うか、弱い。 そんな男が娘の使い魔だということに、親として納得が行かなかったのだろう。いや、あるいは……ギーシュにはよく分からないが、『娘を取られる親の心境』というヤツなのだろうか。 しかし、どうして公爵じゃなくて『公爵夫人』がユーゼスに稽古をつけるのだろう? (公爵が忙しかったから、その代わりだった……とかかなぁ) 実際の事情とはかなり異なっているギーシュの予想だったが、ともあれそれで納得した彼は質問を重ねる。 「『カトレア』ってのは誰だい?」 「御主人様の姉で、エレオノールの妹……要するにヴァリエール家の人間だ。彼女たちは三人姉妹ということになるな」 それを聞いて、ギーシュがその顔を露骨にしかめた。 別にそのカトレア嬢とやらの容姿や性格がどうとか(『ルイズの姉でエレオノールの妹』という時点で大まかな想像はつくが)、ラ・ヴァリエール家の家族構成とかは重要ではない。 問題なのは。 「…………その、ルイズの姉君と、君が、『二人でお茶を飲む』という、関係に、至った、経緯が、よく分からない、んだが」 「?」 彼は『質問の内容の伝達に齟齬があってはいけない』という思いを込め、一句一句を噛み締めるようにしてゆっくりと発声しつつユーゼスに問いかけていく。 ルイズが乗馬の指導をして、エレオノールがダンスの踊り方とかを教えるのは分かる。 この男の乗馬の下手さ加減もまた折り紙付きだし、ダンスうんぬんに関してはいつかそんなことを話した覚えもある。 だが、茶を飲むって何だ。茶って。 しかもその口振りからすると、日常的に行っていたらしいし。 おまけにファーストネームの呼び捨てで呼んでいる。 これはエレオノールだけじゃなかったのか。 「よく分からない、と言われてもな。向こうの方から『お茶でも一緒にどうですか』と頻繁に声を掛けてきて、私がそれに応じた……というだけだぞ」 「………………それについて、ミス・ヴァリエールやルイズはどうしてたんだね?」 「そう言えば、茶を飲んでいる時に後から同席してくることが多かったな」 「~~~~~っ」 うめき声とも唸り声ともつかない奇妙な声を発し、頭を抱えるギーシュ。 何でコイツは理論とか考察とかについては周囲を驚愕させるほど凄いのに、女性関係とか恋愛方面とかになると周囲を驚愕させるほどダメなんだろう。 ついでに、稽古という名目ではあるが母親にまで手を出しやがって。 ……いや、これはおそらく『純粋に稽古をつけられて』いるか、あるいは色々なストレスをぶつけられているかのどちらかだとは思うが。 って言うか、本当に母親まで『そういうこと』になっていたら、ギーシュはこの男を許せないかも知れない。 むしろ、理性を抑えきれる自信がない。 下手すると殺してしまうかも。 ……………………まあ、取りあえず。 「もう君は……アレだ。『ヴァリエールキラー』とでも名乗ったらどうかね?」 「エースキラーのような呼び名だな」 「えーすきらー?」 「いや、こちらの話だ」 気を取り直して、ユーゼスはギーシュとの会話を再開させる。 「……いちいち二つ名を名乗るような面倒なことはしたくない。大体、私はヴァリエールの人間に対して何かをしたという訳ではないぞ。むしろ何かをされた方だ」 「……………」 ギーシュは呆れた。 コイツ、全然成長してない。 いや、むしろ酷くなってないか? (逆の方向に成長したってことなんだろうか……) もはや諦めにも似た境地に達しつつあるギーシュであったが、しかしこの男を何とかして(ある意味)真人間にするのも自分の使命であるような気がするので、ここはグッと我慢する。 と、そこでユーゼスがあらためて無表情な顔をギーシュに向け、逆に質問を繰り出してきた。 「……私の方はこんな所だが、お前の方はどうだったのだ、ミスタ・グラモン?」 「うん? いや、『どうだった』って言われても……」 ギーシュとしては、夏期休暇中に特筆すべきことが起こった訳でもない。 途中までモンモランシーと一緒に学院に残っていたが、実家から『帰って来い』と手紙で催促が来たので帰り、その実家で父や母や兄たちと過ごした……と、このくらいである。 まあ、強いて言うなら父に『戦とはうんぬんかんぬん』、『戦場における貴族のあり方とはああだこうだ』、『手柄を立てるにはどうしたこうした』とかの事項を、ことあるごとに言われたくらいか。 「……ほう。ということは、お前はやはりアルビオンに向かうのか」 「まあね。貴族たる者、イザという時にはこの身を投げ打ってでも祖国の為に尽くすものさ」 得意げにそんなことを言うギーシュ。 彼としては、この無愛想な男からも激励――とまでは行かずとも、ささやかな応援の言葉くらいは欲しかったのだが……。 「ふむ。……まあ、せいぜい死なないようにするのだな」 しかし投げかけられたのは、そんな素っ気ない一言だった。 「…………君なぁ。これから戦に向かおうって人間に向かって、そりゃないだろう?」 「どういう意味だ?」 「普通なら、ここで『手柄を立てて来い』とか、『頑張れよ』とか言うべきじゃないか」 ギーシュにそう言われたが、ユーゼスはあくまで興味がなさそうに応答する。 「それでお前の生還率や手柄を立てられる確率が上がる、と言うのならそうするが」 「……………」 何ともまあ、ミもフタもない言葉である。 そりゃ、言葉一つでそんな劇的に何かが変わるってわけじゃないだろうけど、それにしたってちょっとくらい励ましてくれても構わないのではなかろうか。 などとギーシュが不満に思っていると、ユーゼスは更に追い討ちをかけるように言葉を重ねた。 「率直な意見を言わせて貰えば、五体満足で生きて帰って来れれば良い方だろうな。学生にたかが二ヶ月程度の訓練を施したところで、マトモな働きは期待出来ん。これは私自身がこの二ヶ月で体験したことでもある」 「そうなのかい?」 「まったくの素人がゼロから訓練を始めたのだからな。少なくとも、劇的に強くなるのは無理だった。……もっとも、公爵夫人が言うには『余程の天才が連日昼夜を問わず訓練に明け暮れ、かつ指導者が優秀だった場合は話が違ってくる』らしいが」 「……君はそうじゃなかったのか」 「夫人には『肉体を使った戦闘の才能がほとんどない』と言い切られてしまってな。『下手に応用を教えたら逆効果になる』と言うことで、基本的な戦い方のみを二ヶ月間で仕込まれるだけ仕込まれてしまった。 ……おそらくお前の場合も似たようなことになるのではないかと思うが」 「う……」 自分の力不足に関しては、それなりに実感しているギーシュである。 これは中々に痛いところを突かれてしまった。 「それでなくとも初陣なのだ。『戦場の空気』というものは独特だからな、まずはそれに順応するだけで手一杯だろう」 「……何だか実際に戦争を体験してきたみたいな言い方だな」 「昔に少しあってな」 やけに具体的に語るユーゼスに対してギーシュが疑問の声を上げるが、サラリと返されてしまった。 (コイツの『昔』って一体何なんだろう……) 興味はあるが、今はそれよりもユーゼスの語る戦争について、である。 「また、場合にもよるが『普通の兵士』が戦局に与える影響はあくまで微々たるものでしかない。トリステインとゲルマニアの連合軍の兵力は合計で六万ほどらしいが、お前に与えられた役割はその『六万分の一』が良い所だろう」 「…………何で君は、こう、やる気を削ぐようなことを言うかな」 「自分の意見を言っているまでだ」 その言葉通り、ユーゼスは感情を交えずにただ自分の予想を述べていく。 これがまた納得出来る部分がそれなりに多いので、ギーシュとしても『聞かなきゃ良かったかなぁ』と思いつつ、話自体を止めようとはしなかった。 「私はお前に対して『死ぬな』などという無責任なことを口にするつもりはないし、『死んでも手柄を立てて来い』と強制する権限も持ち合わせていない。 よって、『死なないように努力しろ』としか言えない訳だ」 ユーゼスはそこで一旦言葉を切ると、あらためてギーシュの顔を見て何かを考え込んだ。 「……とは言え、知人が死んだという知らせを聞かされるのは私としても辛いものがあるからな。参考になるかどうかはともかく、戦場に行くに当たっての軽いレクチャー程度ならばしても構わんが……どうする?」 「むぅ……」 そういうものならば、戦争が始まる前……いや、魔法学院に入学する前から父に飽きるほど聞かされている。 だが、この男のアイディアや意見は今までにあの『土くれ』のフーケのゴーレムを攻略し、不意打ちとは言えワルド子爵を打ち破り、オーク鬼の群れを片付け、キュルケとタバサを殺しかけて、『アンドバリ』の指輪で操られたアルビオン兵を封じてきた。 実績だけ見れば、ハッキリ言って驚異的である。 だから……。 「…………お願いしよう」 取りあえず聞けるものならば聞いておこう、とギーシュはそのレクチャーとやらを頼むのであった。 三日後、魔法学院の学院長室。 学院長たるオールド・オスマンは、ヒゲをいじりながらボヤき声を上げていた。 「……トリステインも何だか、せっぱ詰まってきたのう」 「グチを言ったところでどうにかなるものでもないでしょうに」 「いいんじゃよ、言うだけタダなんじゃし」 ボヤきを秘書のミス・ロングビルにたしなめられつつ、しかし態度を改めようとしないオスマン。 つい二日前、アルビオンへの侵攻作戦が魔法学院に正式に発布され、それと同時に王軍は学生仕官の志願を募った。 当然と言えば当然だが、それを受けて学院の男子生徒たちや男性教師たちは我先にと志願。昨日から即席の士官教育を二ヶ月ほど受けることになっている。 おかげで魔法学院の人口は半分ほどにまで減少し、いつもなら賑わっているはずのこのトリステイン魔法学院もすっかりガランとしていたのだが……。 そんな閑散としていた魔法学院に昨晩、王政府から『残った女子生徒たちにも軍事教練を施す』という連絡が舞い込んできた。 そして先ほど、その教練のために銃士隊の隊長であるアニエス・シュヴァリエ・ド・ミランが現れ、『これから軍事教練を行います』とかなり一方的に告げてきた。 「……ミス・ロングビル」 「何でしょうか」 「忌憚なき意見を聞かせてもらいたいんじゃが……この軍事教練について、君はどう思うかね?」 オスマンはカリカリと書類に向かってペンを走らせるミス・ロングビルに、いつになく真剣な目で問いかける。 「どう、と言いますと?」 「そのまんまの意味じゃよ。第一印象ってヤツじゃな」 「―――率直な所を言ってもよろしいのでしょうか?」 「構わん、構わん。誰かに聞かれても困ることはありゃあせん」 「……………」 ミス・ロングビルはペンを止めて少し考え込むが、やがて本当に『率直な第一印象』を口にした。 「『気休めにもならない』、ですかね」 「……キッパリ言うのう」 「『言え』、と言ったのは学院長ですわ」 だが、オスマンもミス・ロングビルのそのセリフを否定はしない。 トリステイン……いやアンリエッタの王政府は、割と早くから国中の貴族をこの戦に投入する構えを見せていた。女子生徒まで予備士官として確保しておき、アルビオンで実際に戦っている戦力が消耗した場合には彼女たちを向かわせるつもりらしい。 オスマンは、そんな王政府の姿勢に疑問を感じる一人であった。 百歩譲って男子学生ならともかく、女子生徒まで戦に巻き込もうとすることを良しとしなかったのである。 無論、男子生徒の徴用も含めて反対意見は出したのだが『勉学は戦争が終わってからだ』と王政府に言い切られてしまってはどうにもならない。 よって、ささやかな嫌がらせ……もとい、抵抗の意志を示すため、男子生徒たちの士官教育が終わる二ヵ月後に予定されている王軍見送りの式に出席せず、また女子生徒たちにも出席を禁じさせる旨を伝えたら……。 「それが余計に向こうを刺激しちゃった、ってことじゃな」 はあ、と溜息をつくオスマン。 ミス・ロングビルはそんな老人に頓着せず、ただ黙々と書類を片付けている。 「……なあ、ミス・ロングビルや」 「何でしょうか」 「こんな風に可哀想な老人がこれ見よがしに溜息をつき、若者たちの未来を憂いていると言うのに、慰めの言葉の一つもない……というのは少し酷くはないかね?」 「……………」 物凄く嫌そうな顔で、本人曰く『可哀想な老人』を見るミス・ロングビル。 その『可哀想な老人』は、何かを期待するような瞳で自分を見つめている。 「はぁ……」 仕方がないのでミス・ロングビルは再び仕事の手を止めて、その慰めの言葉とやらを言ってやることにした。 「げんきだしてくださいよ、そのうちきっといいことありますって」 「何、その適当なセリフ!? しかも棒読み!!」 「……下らないこと言ってる暇があったら、夏期休暇中に溜まっていた仕事を片付けてください」 ピシャリと言い放ち、仕事に戻るミス・ロングビル。 夏期休暇の間、彼女は実家(厳密に言うと『実家』ではないが)に帰省していた。 そして当たり前だが、夏期休暇中であろうがなかろうが、秘書がいようがいなかろうが書類やら何やらの処理は発生する。 ……だと言うのに、オールド・オスマンはその色々な仕事をほとんど手付かずのまま放置していたのである。 「って言うか、何で仕事してないんですか!? 時間はたっぷりあったでしょう、それこそ二ヶ月も!」 「だ、だって……生徒たちは休みで実家に帰ったりして夏を満喫しとるのに、魔法学院で一番偉い私が仕事に忙殺されるなんて、理不尽だとは思わんかね?」 「つまりずっと遊んでたんですか、あなた!?」 「『遊んでた』とは失敬な! この夏という一瞬の輝きを逃さないために、日々酒場やカジノに繰り出したりして最大限の努力を行っていただけじゃあ!!」 「それを遊んでたって言うんだよ、このボケジジイ!!」 思わず口調を巣に戻してオスマンをなじるミス・ロングビル。 その秘書の剣幕に押されてか、学院長はシュンと小さくなってうなだれてしまった。 「くすん……。最近キツいのう、ミス・ロングビル」 「キツくなるようなことを言ってるのはそっちでしょう。それと変な泣き真似なんかしないでください、気色悪いですから」 「ひどっ」 しかし、かく言うミス・ロングビルもまた夏期休暇で帰省していた際には、妹代わりの少女や居候の男などと割と楽しく過ごしていのだが……。 (それにしてもシュウの奴、『アインストの研究はほぼ終わりましたが、アレよりも厄介で興味深い研究対象を見つけました』とか言ってたけど、一体何なんだろうねぇ……) シュウが『厄介』と言うくらいなのだから、きっと物凄いモノなのだろうが……まあ、あの男の得体が知れなくて何を考えているのか分からないのは、いつものことだ。 (それに『厄介』だって言うんなら、私にとってはティファニアの誤解を解く方が厄介だったし……) いやもう、アレには本当に苦労した。 自分が何を言っても『いいの、わたしに気を使わなくっても……』とか『そうよね、シュウさんもわたしなんかよりマチルダ姉さんの方が……』とか言うばかりで、誤解を解くと言うよりはもはや説得に近かったほどだ。 何せ、どうにかティファニアを納得させるまでに一週間もかかったのである。 「ふぅ……」 まあ、過去のことはともかくとして。 「明日にはアカデミーから臨時教師の方も来られるんですから、その時はキチンとしてもらいますよ」 「えー」 「『えー』じゃありませんっ!」 何でこんなのが魔法学院の学院長になれたのかねぇ……などと思いつつ、ミス・ロングビルはその学院長のサインを残すのみとなった書類を次々とオスマンへ回していく。 アウストリの広場。 いつもならば男子女子ひっくるめた学院生徒たちの声で賑わっているこの広場も、男子生徒たちの全員が軍へと志願してからはガランとしてしまっている……はずであったのだが。 「えいっ、やあっ!」 「とぉ~!」 「たぁぁ~~っ」 「きゃあっ!」 授業中のこの時間、アウストリの広場は女子生徒たちのきゃあきゃあ騒ぐ声で賑わっていた。 彼女たちは例外なく『布で包んだワタを先端にくくりつけた木の棒』を手に持っており、その棒を女子生徒同士でカコカコと突き合わせている。 「痛っ! もう、そんなに強くしないでよ!」 「ご、ごめん~」 ……どうやら槍の訓練をしているらしいのだが、どうにも緊張感がないというか真剣味が足りなかった。 まあ、無理もない。 現在トリステイン各地の練兵場にいる男子生徒たちならともかく、この彼女たちは基本的には『貴族のご令嬢』であって、このような荒事には無縁の生活を送ってきた者がほとんどなのである。 では何故、そんな女子生徒たちがこのような訓練をしているのかと言うと。 「―――お前たち、もっと真剣にやれ! いっそのこと、目の前の相手を殺すつもりでやっても構わんぞ!!」 突然この魔法学院にやって来た『女王陛下の銃士隊』である所の女性たち……特にその隊長のアニエスという女が先頭に立ち、女子生徒たちに軍事教練を施しているからである。 名目としては『杖が使えない場合でも最低限、自分の身を守るための訓練』なのだそうだ。 (その発想は間違っていないと思うが……) そんな女子生徒たちをボンヤリと眺めながら、ユーゼスは一人やることもないのでこの軍事教練について考えていた。 (……しかし、これでは『軍事教練』と言うよりも『護身術の稽古』だな) まあ本格的に軍事教練などをやろうとしたら、それこそ男子生徒たちと同じように専用の施設と人材とそれなりの期間を用意しなければなるまい。 だが、今のトリステインにそんな余裕がある訳もなく。 かと言ってイザと言う時のための『頭数』(ユーゼスはあえて『戦力』という言葉は使わなかった)は確保しておきたいので、取りあえずの『軍事教練』を行っている……と、こんな所だろう。 (……ふむ) 一応の可能性として、『この少女たちが実際に戦場に行った場合』を想定してみる。 戦力がかなり消耗してから投入されるだろうことはユーゼスにも予想が出来るが、そんな『かなり消耗した戦局』で『にわか仕込みにもなっていない少女たち』を放り込んだら、果たしてどうなるか。 (…………良くて囮、普通に考えて防壁代わり、最悪の場合は特攻要員だろうか?) 中々に暗澹とした未来予想図であるが、100%否定することも出来ない。 ……加えて言うなら、この軍事教練はアンリエッタ女王陛下の名において命じられたものであるため、教練を施す方にも施される方にも拒否権は無い。 (それがハルケギニアにおける必然であるならば、仕方がないな……) ちなみに彼の主人である桃髪の少女も当然ながらこの軍事教練に参加しているのだが、この軍事教練についての彼女の意見は、 「『魔法学院の生徒として』なら受けるわ」 だそうだ。 ルイズとしてもこの軍事教練について思う所はあるようなのだが、今の所は『一人のトリステイン貴族』としての立場でいることにしたらしい。 (とは言え、それも今後の展開次第だろうが……) ユーゼスがその気になれば今後の戦局の詳細かつ正確な予測どころか、この戦争の展開そのものを自在に操ること、本格的な戦争状態に突入する前のこの状態で両国の問題を解決することすら可能である。 ……だが、彼はそれをすることを良しとしない。 そのような絶対者の存在は、必ず世界に何らかの歪みを生じさせるということを身に染みて理解しているからだ。 地球の環境再生のために作り出されたアルティメットガンダム、正義のために作られたはずの人造人間たち、そして宇宙の守護神と呼ばれていたウルトラマンですらそうだったのだから。 ……もっともアルティメットガンダムに関して言うのであれば、自分の思惑もそれなりに入っているが。 ともかくそんな無用の混乱を避けるため、ユーゼスは御主人様たちがせっせと訓練に励んでいる光景を眺めつつ、こうして広場の隅に腰掛け、読みかけの本を手に取るのである。 「………」 一応ラ・ヴァリエールの領地を発つ時にカリーヌから『身体をなまらせないためにも、毎日最低限の訓練を欠かさないように』と言われていたが、『自分の現状の維持』など因果律のほんの少し操作で事足りる。 「……そう言えば」 今日はラーグの曜日である。 これもまたラ・ヴァリエールの領地を発つ前あたりにカトレアと話して決めたことなのだが、週に二度、虚無の曜日とラーグの曜日にはカトレアの診察のためにラ・フォンティーヌの領地に向かうことになっていた。 しかも、何故かエレオノールやルイズには秘密で。 「必然的に移動にはジェットビートルを使わなければならんのだが……まあ、御主人様には『一人で空の散歩がしたい』とでも言っておくことにするか」 なお、例によって例のごとく『断わる理由が特にない』といういつもの理由でもって、ユーゼスはカトレアの頼みをほぼ全面的に承諾している。 取りあえず彼女たちの訓練が終わって一段落したら、御主人様に許可を貰おうか……などとユーゼスが考えていると。 「おい、そこのお前!」 「?」 いきなり誰かに声をかけられた。 声の方に顔を向けてみれば、そこには金髪を短くカットし、鎖かたびらや簡易的な鎧を着込んだ女性の姿。 アニエス・シュヴァリエ・ド・ミラン。 何でも先のタルブ戦で貴族にもひけを取らない戦果を上げ、平民でありながら『シュヴァリエ』の称号を授与、更にはつい最近発足した女王直属の『銃士隊』とやらの隊長に任命された、という女傑である。 また外見から分かるように相当に気が強く、授業の真っ最中だというのにヅカヅカと教室の中に入ってきて問答無用で授業を中止させ、半ば強制的に現在行っている『軍事教練』へと移行させたほどだ。 ……授業を行っていたコルベールは落ち込んでいた様子だったが、まあそれはどうでもいい。 しかし学院の男手は教師も含めてほぼ全員が王軍に志願したと言うのに、なぜあの男だけは学院に残っていたのだろうか。 本人は『戦が恐い』と言っていたが……。 (…………それこそどうでもいいか) あの男の研究内容はユーゼスにとっては唾棄すべき物だが、その人間性まで否定が出来るほど彼のことを知っているわけではない。 今は目の前のアニエスである。 「……私がどうかしましたか、ミス・ミラン」 ユーゼスは立ち上がってアニエスに返答した。 なお、元々は平民とは言え彼女は初対面の貴族なので敬語を使っている。 対するアニエスはやや不機嫌そうな様子で、そんなユーゼスに質問をぶつけてきた。 「あの場にいる女子生徒の誰かの従者か何かだと見受けるが、主人が軍事教練を行っている最中だというのに、お前は何もしないのか?」 「……………」 何かと思えば、そんなことか。 「私の専門は戦闘ではなく研究や分析ですので」 一部の隙もない完璧な返答(だと言った本人は思っている)を行うユーゼス。 ……人間には適材適所、というものがある。 メイジにはメイジの、兵士には兵士の、そして研究者には研究者の役割があるのだ。 そして研究者の役割とは、連日に渡ってスクウェアクラスの風メイジに拷問じみた訓練を受けることなどでは断じてないはずなのである。 と、言うか。 (学院では牧歌的な生活を送りたいのだが……) しかし、どうもアニエスはユーゼスの言葉に納得がいかないらしい。 「今は戦時だぞ。専門であろうがなかろうが、イザという時のための備えはするべきだ。……それに本当に敵が攻めて来れば、お前とて戦うのだろう?」 「……戦いの専門家であるあなた方には遠く及ばないと思いますが」 「フン」 そしてユーゼスのことをジロジロと見つめた後、部下の銃士隊隊員に命じて木剣を二本持って来させる。 「……ミス・ミラン、何を?」 「おおよその察しは付いているのではないか、研究者殿?」 嫌な予感がしたユーゼスはアニエスのその行為の意図を問い質そうとするが、時すでに遅し。 アニエスはユーゼスに向かって木剣を一本放ると、もう一本の木剣をおもむろに構えた。 そして。 「貴族のお嬢さん方の相手ばかりしていても退屈だからな。暇潰しに貴様を鍛えてやる。喜べ」 「……少し待っていただきたいのですが」 一応の抗議を試みるユーゼスだったが、アニエスは『聞く耳持たぬ』と言わんばかりに木剣の切っ先をユーゼスの頭部に向けて振るう。 「!」 ユーゼスはそれを咄嗟にギリギリで回避し、しかしそのせいで体勢を崩して地面をゴロゴロと転がった。 「ほう、かわしたか。……避け方はてんでなっていないが、どうやらある程度の基本は出来ているようだな」 それはそうだ。 二ヶ月間も毎日実戦形式で戦闘訓練をやらされていれば、どんなに才能がない人間でも嫌でも戦い方の基本くらいは身に付いてしまうものである。 「単なる青びょうたんかと思ったら、意外と骨がありそうだ。……だが基本だけでは敵に勝てん。そこからいかにして『自分の戦い方』を模索するのかが重要になってくるのだが……まあいい、それをこれからみっちりと教えてやる」 「いえ、遠慮して……」 訓練終了時にカリーヌから言われたこととほとんど同じことをアニエスから言われたので、ユーゼスの感じていた嫌な予感が十倍くらいに膨れ上がった。 なので、アニエスの申し出を丁重に断ろうとしたのだが。 「遠慮することはない。……お前は鍛えられて実力が上がる、お前の主人は従者の実力が上がるので安全性が高まる、私は暇潰しが出来る。そら、一石三鳥ではないか」 ニヤリと笑うアニエス。 何だか押し切られそうな感じになってしまっている。 (……ハルケギニアに召喚されてから、やたらとこの手の女に縁があるな……) もしや、そのような因果律か何かでも働いているのでは―――などと考えるが、そんな妙な因果律があるとも思えないのですぐに思考を打ち切る。 「さて、話はここまでだ!」 そしてその途端、互いの会話もここで打ち切りとばかりにアニエスが木剣を構えてこちらに突きを叩き込んできた。 「っ!」 カリーヌとの訓練の賜物か、ユーゼスは反射的にその切っ先を自分の木剣で払い、すかさずアニエスと距離を取った。 (本格的な対人戦の訓練は、それほどやっていないのだが……) 二ヶ月の間に魔法の刃である『ブレイド』を使ったカリーヌに一方的に斬りかかられたり突き込まれたりされた経験は多少あるが、それにしても『対メイジ戦』である。 直接戦闘と言えばギーシュのワルキューレとの戦いは単調な動きの隙を突けば何とかなったが、今の相手は本格的な『剣士』だ。参考にはなるまい。 それに何より、木剣ではガンダールヴのルーンが発動してくれない。 これは大問題だった。 カリーヌに受けた訓練も、オリハルコニウムの剣やデルフリンガーがあり、かつルーンの身体強化の効力があったからこそギリギリで乗り切れたのである。 訓練によって多少体力や腕力、そして技術が身に付いたとは言え、ハッキリ言ってガンダールヴのルーンなしのユーゼスの身体能力は『平均的な平民』とほぼ同じと言っていい。 (取りあえず、防戦に徹するか) シャイニングガンダムに乗っていた頃のドモン・カッシュでもあるまいし、真正面からやたらめったら突っ込んでいく、というスタイルはユーゼスの望むところではない。 それに攻撃の際に出来た隙を突かれて、逆に反撃もされたくもない。 何より初見の相手である。迂闊に仕掛けるわけには行くまい。 (しかし、なぜ公爵夫人から解放されたと思った途端、魔法学院でまで訓練を受けければならないのだろう……) 別に強くなって困るという訳ではないのだが、自分の本来の担当は肉体労働ではなくて頭脳労働なのだ。 いわゆる『畑違い』というやつである。 それにそろそろ魔法学院の自分の研究室で本格的に『虚無』の研究を始めようかと思っていたのに、初手からつまずくことになってしまった。 (とんだ計算違いだな) 辟易しつつ、アニエスの攻撃をどうにかこうにか捌いていくユーゼス。 まあとにかく軍事教練の時間が終わるまでしのいでいれば、この自分に対する訓練も終わるだろう。 ということで、ユーゼスはアニエスの攻撃に対して回避と防御のみに専念するのであった。 なお、余談ではあるが。 この後、ユーゼスは『お前は避けることと受けることしか知らんのか』とアニエスに怒鳴られ、その直後に烈火の如き連撃でその防御を打ち破られ、全身を木剣でしたたかに打たれることになる。 前ページ次ページラスボスだった使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7382.html
前ページ次ページゼロのロリカード 突如平和な魔法学院で起こった襲撃事件。 ただでさえ、メンヌヴィルが率いたメイジ集団に続く、二度目の学院への襲撃。 例えそれを考えずとも、当然ながら大事にならない筈はなく。 とりあえずアーカードは王宮へと赴き、事件のあらましをかいつまんでだけ話す。 「そん・・・・・・な・・・」 ルイズが攫われた。 その事実を目の前にして、アンリエッタの顔が蒼白になる。 そして・・・・・・同時に圧し掛かる選択。 己の取るべき道――――――友を助けるか、それとも国の安全を考えるのか。 「気に病むことはない」 アーカードはそう言うも、アンリエッタの顔は険しくなる一方である。 見通しが甘かったのか?否、こんなことになるなんて誰にも予想なんて出来なかった。 ガリアが・・・・・・このような凶行を行うなど。 「・・・・・・それに、今から助けに行くしの」 「なっ!?しかしそれは・・・・・・」 ――――――アーハンブラ城は、エルフが暮らす砂漠の国境にある城である。 元々はエルフが建てた城であり、砂漠の小高い上に建てられたその城は、今は廃城となっている。 当然ガリア領であり、奪還する為にそこへ侵入するということは、意趣返しに他ならない。 つまりはガリアとの戦争を意味することになるだろう。 疲弊した今の国力でガリアと戦うこと、それは何を意味するのか。 最悪トリステインという国が滅びること。国力が万全な状態でも彼我の戦力差は圧倒的。 国を守る為に、友人を――――――見捨てる?それが王の取るべき道なのか? アンリエッタは自問し葛藤する。 「迷うことなどない。選ぶ道は一つだ」 アンリエッタの葛藤を、見透かしたかのようにアーカードは言った。 その言葉は、どこか威圧するかのような声色だった。 「助けに行くしかない・・・・・・と?」 「そうだ」 「しかしそうなれば・・・・・・ガリアとの戦争は、間違いなく避けられません」 「フッ・・・・・・馬鹿な」 アンリエッタの言葉に、アーカードは嘲笑する。 「口が過ぎます。いくらマスターでも、我が主君を侮辱するような態度は慎んで頂きたい」 横に控えたアニエスが、アーカードの不敬な振る舞いに対してそう告げる。 そんなアニエスの忠犬っぷりに、アーカードは心底愉快そうに笑う。 一皮剥けるまでビクついていたセラスと違い、最初から物怖じしないというのも新鮮であった。 「これは失礼。・・・・・・何を悠長な事を言っているのかと思って喃」 アンリエッタは静かに耳を傾け、次の言葉を待つ。 「これはもう戦争だ。戦など疾うに始まっているのだよ、女王」 自国領に戦力を持ち込み、害意を以て争った。 さらに主人を攫われたアーカードにとってはもう、これは絶対に避けられぬべき戦。 そして・・・・・・数多くの戦争を体験してきたアーカードだからこそ、同時に感じているものがあった。 これから起こり得る、戦争の匂いというものを。 アンリエッタは改めてそう言われて絶句する。 戦力を以てトリステイン国内を侵犯し、学院を襲い、ルイズを誘拐した。 確かに・・・・・・戦争と言っても差し支えはない状況。 刺激するのを恐れて静観を決め込んだとして、国家間の大戦争にならないと誰が言えようか。 諸国会議の時、ガリア王ジョゼフからは得体の知れない何かを感じた。 貪欲な獣が人の皮を被っているかのような、何か途方も無く恐ろしいものを感じた。 そうだ、既に後手に回っているのだ。 相手に先手を打たせてしまっている。そして今は自分の手番。 それをパスをしてしまえば、相手にまた一手許す事になる。 「・・・・・・わかりました」 「ふむ、わかってくれたか」 「えぇ・・・・・・正式に抗議を致します。ガリアと、あのジョゼフ王と、私自ら交渉しましょう」 今のまま戦ったところで、トリステインが勝つ事は不可能である。 強国ガリアとまともに戦争をして、勝つ方法など存在しない。 アーカードの溜息が耳に入る。わざと聞こえる声で漏らしたのがわかった。 度重なる考えの相違に辟易している、と言った感じである。 アーカードの気持ちは理解できる、痛いほどに感じ入る。 親友であるルイズが攫われて、平静な気持ちでいられる筈もない。 されどその上で、アンリエッタは毅然として問う。 「・・・・・・不服ですか?」 「不服だな」 「他に何か方法があると言うのですか?我が国は、強大な国力を持つガリアに対抗する術はありません。 アルビオンとの戦争の時とは比較になりません。勿論、ルイズは私が命に代えても取り戻すつもりです」 それがせめてもの自分に出来ること、最悪国を治めるのは別の誰かでも良い。 それでもルイズだけは、己が身を代わりにしてでも助け出す。 「なに、私がガリアを全て飲み込めばそれで済む」 アーカードはさも簡単なことと言った風に、その案を提示した。 小国トリステインが大国ガリアに勝つ方法を。戦略とは決して言えないその方法を。 確かに話に聞いただけであるが、アーカードの拘束制御術式零号開放ならば・・・・・・可能なのだろう。 しかし――――――。 「それは・・・・・・なりません。それではガリアの兵も民も、無用に殺すことになるでしょう」 「戦場に立つのだ、それくらいは覚悟をしてもらわんと」 「あの王が元凶なのでしょう?兵達はその真意を知らぬまま、貴方に殺される事になります。 兵達に非はありません、命令に従うだけです。そしてその家族は、耐え難い悲しみに襲われるでしょう」 アンリエッタは少しだけウェールズのことを思い出す。 愛すべき者が死ぬことの辛さは身を以て知っている。 自分は死んだウェールズと、ほんの一時の間でも話せたから良かった。 己の心の折り合いをつけることが出来たから・・・・・・。 しかし皆が皆、そうして心の整理をつけることはできないのだ。 一方でアーカードは心の中だけで嘆息をつく。 アンリエッタが王らしい風格を持つのは、素直に喜ぶべきことだった。 気高い人間であること、人としての美徳、それを持ち得る人間は例外なく美しい。 が、意見を違えるとなると、これはなかなかに困ったもの。 そしてアンリエッタの言う事にも理はある。 と、アニエスが何か考え付いたように口を開いた。 「ガリア王だけを殺せば良いのでは?確かあの国には未だ、亡きオルレアン公派がいると聞きます。 予めその者達とコンタクトを取り利用すれば、ガリア王を暗殺した後も治めることは出来ましょう」 「現状、ガリア王だけを殺すことは不可能だ。何故私が、ルイズが攫われるのをみすみす許したと思っている。 それに何よりも時間が足りない、正直今こうして会話している時間すら惜しい。悠長に準備している時間はない。 恐らくルイズならば、こういった筋は通すだろうと、仕方ないから報告だけはしに来たがの。だが・・・・・・それだけだ。 はっきり言ってしまえば、無駄な問答をする気もない。・・・・・・私に命令出来るのは、私が認めた主であるルイズだけだ」 ウォルターが善処すると言った以上、ルイズに危害が加わらないように動くだろう。 故に早々に危険は及ばないかも知れない、が・・・・・・保障はない。 いつまで安全でいられるかもわからない。時間が経過すればするほど危険である。 ただでさえアーハンブラ城まで距離がある。シルフィードを飛ばしたとて相応の時間が掛かる。 「まっ・・・・・・そういうわけでの、私は私で好きにさせてもらう」 アーカードの言葉が、想いが、アンリエッタの心に突き刺さる。 国の為ならば、親友の為ならば、死ぬことも厭わない自分と心根は一緒なのだ。 しかしそれを思って尚、ここは王としての責務が勝る。 「・・・・・・それならば、私は貴方を止めねばなりません」 アンリエッタは覚悟を秘めた双眸で、アーカードを見据えた。 その言葉に呼応するように、アニエスが剣を抜く。 アーカードが命の恩人であろうと、主従の関係であろうと、ここはアンリエッタへの忠義が勝る。 「・・・・・・いくつか、貸しがあった筈だな」 力尽くで征くのは容易い、しかしそれは少し気が引けた。 かと言って説き伏せるのも面倒だと、それを口にした。 「だから、あなたの行動に目を瞑れと・・・・・・?」 「んむ」とアーカードは頷く。 アンリエッタは眉を顰める。確かにアーカードには恩義がある。 アンリエッタ自身が、自分の一生を懸けても返し切れないだろうと。 それほどまでに思っているほどの、大きな借りが。 「私は女王です、個人的な恩と国の大事を天秤に掛けることは出来ません」 貸しを理由に容認しないとわかると、アーカードはアプローチを変える。 判明している事項を一つ一つ提示し、まともに説得しようとしたら時間が掛かる。 故に・・・・・・強い言葉で脅迫し、畳み掛けて思考力を奪うことにした。 「交渉が通じる相手だと思うのか?」 「・・・・・・正直、わかりません。ですが私はこの身を、己が命を懸けてどうにかして見せます」 アンリエッタの強き言葉。嘘ではないと誰もが感じるだろう。 しかし言葉だけだ。保証などある筈は無し、何よりも悪手。 さらに面倒で追い詰められた状況になるやも知れぬ、その無謀な案を聞くわけにはいかない。 「リスク管理はきちんとせねばならん。その強き志は買うが、確証を得られないのでは納得いかぬな」 アーカードは矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。焦燥感を煽る為に。 「そうさの・・・・・・少しだけ最悪のケースを語ろうか。現在の状況から考えられる一つの可能性を。 哀れ、交渉をしにいった勇敢な女王は殺され、国のトップを失ったトリステインはそう時を経ずして崩壊。 さらに攫われたルイズが水魔法で操られ・・・・・・かつてタルブで見た、『エクスプロージョン』がトリステインを包む」 ――――――タルブで見たあの奇跡の光。艦隊を一瞬にして沈めたあの虚無魔法の標的にされる。 「悪意ある虚無魔法が国を襲う。ガリア王ジョゼフの虚無も加わり、戦争の体裁も整えられぬまま国は滅びる」 ――――――二つの虚無の前に、国は為す術なく滅びる。 「それと、ヨルムンガントと言う巨大な剣士人形。卓越した騎士のように動き回る、ゴーレムのような人型。 それが街を、人を虫けらの如く潰すだろう。狂った王様は、何の罪もない者達を殺すことも・・・・・・まるで躊躇わぬだろう。 ついでに先住の『反射』で、虚無以外のあらゆる攻撃が通用しない。つまり虚無を抑えられている今、止めることは出来ん」 ――――――ガリアの属国になるだけならまだ良い。統治者こそ変われど民の安全は保たれる。 しかし・・・・・・それすらも保たれないと、虐殺されると、アーカードは言う。 「アレはこの私でも倒せぬ。さらに操るのは私と同等クラスの使い手。抵抗するだけ無駄と言うものだな。 ちなみに『反射』はエルフの先住魔法だそうだ。ガリアにはエルフの協力者までいるのかも知れん喃・・・・・・」 ――――――アーカードですら倒せぬ兵器。 そして・・・・・・エルフの協力者? 「奴らがその気になるだけで、トリスタニアは破壊され、聡明で気高き女王、貴方も殺される。 一国を簡単に滅ぼせる力が、時間を掛ければ世界をも滅ぼしかねない力が・・・・・・彼奴らにはある」 アンリエッタは黙ってアーカードの言葉を聞いていた。 否、聞くことしか許されなかった。それほどまでに衝撃的な内容。 アーカードとしては、時間の浪費と、面倒だから、と言う理由から端折っていたのかも知れない。 飽くまで推測の域を出ないものの、最悪のケースとして認識しておかねばならぬ全容。 こうまで聞かされては嫌でも想像してしまう。 アンリエッタの脳裏に浮かぶトリステインの終焉。 反論のしようもない。アンリエッタは自身の喉が渇くのを感じ、言葉が出なかった。 「ここで攻めずして、どうするか。連中がその気になっていない、今が好機なわけだ」 アンリエッタは目を閉じて考える。そして、一つだけ訊ねた。 「今、攻めれば・・・・・・勝てるのですか?」 「私の決意は、貴方が命を懸けると言ったそれと変わらない。アンリエッタ女王陛下」 アーカードはアンリエッタの表情を見て確信し、ほくそ笑む。 少し誇張気味な言い回しだったが、思ったより上手くいった。 勿論そんなことは悟られぬよう、取り繕って言う。 「安心せい、九分九厘ガリア王はルイズと共にいる筈。今ならば、最小限の犠牲で勝てる戦よ」 ――――――ウォルターはルイズを人質にとり、私をアーハンブラ城まで誘き寄せようとしている。 主人であるジョゼフの「虚無を集める」という命令に便乗し、私と闘うことにしたのだろう。 いずれにせよガリア王ジョゼフは、同じ虚無の担い手であるルイズと会おうとする可能性は非常に高い。 尤も、ルイズと会うにしても・・・・・・アーハンブラ城であるとは限らない――――――。 (だが・・・・・・ウォルターは私と闘いたがっている) 「アーハンブラ城で待っている」とわざわざ言ったこと、つまりそこで戦う算段。 さらにルイズの安全について、ウォルターは「善処する」と言った。 なればウォルターは、ルイズから離れるような真似はすまい。 故にガリア王がアーハンブラ城へ来るよう、手を回すに違いない。 所詮は気まぐれ。だからこそ「少佐のように零号開放させてみろ」とウォルターに言った。 故に命令であることも含めた上で、ルイズを攫うという強硬策に出た気持ちもわからないでもない。 だが同時にルイズはウォルターにとってもアキレス腱となる。 もしルイズが死んでしまえば、永遠に私と戦うことは叶わない。 よくよく考えれば、ルイズを扱うリスクについてウォルターは誰よりも考え、重々に承知している筈だ。 もしかしたらルイズに傷の一つでもつけることすら、恐れるかも知れない。 心理戦と駆け引きはアーカードにとっても望むべくものであった。 人間の頃、幼少期から人の顔色を窺うことは常であった。 読み違えることが、直接命の喪失に繋がる危険も数あった。 故にそうした機微には誰よりも鋭く、同時に駆け引きも学んでいた。 さらにそこから積み重ねた自身の500年以上の経験。 そして三百万を越える記憶と思考を内に有していて、読み合いならお手の物である。 ウォルターの些細な言葉の節々からも、感情から思考パターンまでその心の内を読み取る。 ガリア王がアーハンブラ城へ赴かず、ルイズと会わないのであればそれも良し。 ウォルターが直接危害を加えるとは思えないので、ルイズの安全については問題ない。 それならそれで、とりあえずはルイズを助け出し、ガリア王は後々に殺せば済む。 ・・・・・・裏切り者であったウォルターの言を、信じるのは自分でも正直どうかと思う。 と思いつつも、ウォルターに対して妙な信頼をしている側面があるのもまた事実であった。 それに、相手の思考と合理性をいくら考えたとしても。心理を読むことに自信があっても。 詰まるところ、それらは全て推測の域は出ない。絶対的な確証足りえることはない。 故に・・・・・・当然それを基に、希望的観測で以て戦略を組み立てるのは危険な部分が多くある。 しかし・・・・・・ルイズの安全は、攫われた時点で既に自分の手からは離れている。 仮にアーハンブラ城にいなかったとしても、どこにいるかはわからない。 ガリア首都であるとも限らないし、どこか別の可能性だってある。 つまるところ、選択肢は一つしかないのだ。 アーハンブラ城へ赴き、零号を開放し、その上で勝利し、そして救出する。 アンリエッタはさらに考え、そしてようやく決断をした。 「・・・・・・わかりました。・・・・・・アニエス」 「はっ!」 アンリエッタに呼ばれ、アニエスは返事をする。 何となく察しはついていた。 「あなたなら力になれるでしょう、ルイズをお願いします」 「了解しました。では・・・・・・マスター」 アニエスは剣を鞘に納めると、アーカードを見る。 「あぁ、構わん。足手纏いにはなるなよ」 アーカードは鷹揚に頷いた。 「・・・・・・ルイズを、お願いします」 アンリエッタはその言葉を繰り返した。 震える手を抑えるのが見える。 王として振舞っていても、やはりその心情は、全てを捨ててでも助けたいと思っているのだ。 アーカードは聞く者全てを信頼させるような、雄雄しい口調で答えた。 「無論だ」 前ページ次ページゼロのロリカード